セックスレスを防ぐ誘い方
セックスレスとは「治す」ものではなく「防ぐ」ものです。一度、セックスレスになったカップルが、再び身体を重ねる関係に回復するまでには、何度もカウンセリングに通い、セックスに対する認識を変えたり、相手に対する気持ちとあらためて向きあったり、さまざまな試みが行われます。もちろん、ふたりでじっくり話しあうことも必要で、すべての作業に多大な時間と労力を費やさなければなりません。まずは、このことを心に刻んでください。
セックスどころか日常的なスキンシップすらなくなっている夫婦、カップルがセックスレス克服のカウンセリングを受けた場合、第一段階として、一方の背中にもう一方がひらがなを書き、何の文字かを当てるというトレーニングから始めることになります。少しずつ、地道に、お互いの距離を縮めていくしか方法がないからですが、ここからセックスというゴールまでのあいだには大きすぎるほどの隔たりがあるのは、想像に難くないでしょう。
セックスは、黙っていてやってくるものではありません。結婚しているから、パートナーがいるから、それだけの理由で誰もが当たり前のように受けられる恩恵ではないのです。男女どちらかだけでなく、ふたりともがセックスの火を消さない努力をして初めて、セックスレスは防げます。そのためのコミュニケーションやスキンシップを絶やさない ― 日ごろから、そんなささやかな努力をしていますか?折に触れて、パートナーにどれだけ触れているか、どんなふうに触れているかを振り返るといいでしょう。
もう一度、セックスレスになった原因を尋ねた調査結果(グラフ)に注目してください。男女で最も差があるのが「パートナーに拒否されたから」という項目です。男性全体で約22%、女性全体で約6%と大きな開きが出ています。セックスの火を消さないという強い決意があったとしても、パートナーに拒否されてしまったのでは打つ手はありません。セックスを始める前から、ふたりのあいだにインタラクティブな関係が成立していないという状態です。
別の調査でも、男性がセックスのことで妻からいわれて傷ついた言葉として「拒否の言葉」が多いことがわかっています。欲望を抱えて妻に誘いをかけたところ、拒否され、しゅんとして傷ついている男性の姿が目に浮かびます。
一度でも拒まれたなら、それ以降は自分から誘うのはちょっとした勇気が必要となります。なかには「断られるぐらいなら、もう誘わない」と殻に閉じこもってしまう人もいるでしょう。このことを機にセックスの回数が減っていくのは目に見えています。ここで発想の転換をしてみましょう。パートナーはなぜセックスを拒むのでしょうか?欲望がわかないのでしょうか?それとも何かほかに受け入れられない原因があるのでしょうか?
交際が始まったばかりのころは別として、カップルや夫婦ふたりの欲望が等分になる可能性はとても低く、どちらかが「したい」と思っても、もう一方はそれほどでもないという場合がほとんどです。そのことを念頭において、誘い方を工夫するとよいでしょう。
女性は、男性と比べるとスロースターターです。欲望に火が灯るまで男性より時間がかかります。べッドに横になって寝ようとしているところにガバッと覆いかふさり、突然、顔や身体にキスのシャワーを浴びせ、胸や下半身に手を伸ばすようでは、厳しい拒否の言葉とともに突き飛ばされて当然です。
先述したとおり「朝立ちしたから」という理由で、寝起きに無理に誘うのも、当然だめです。軽いハグなどのスキンシップから始め、時間をかけて全身に触れることで、ようやく女性の心身に「したい」という欲求がわき上がってくるのです。このような誘い方は「セックスは面倒くさい」「忙しくて時間がない」と感じている人にとっては、ますますその思いを加速させるだけかもしれません。けれど、セックスは時間がかかるもの。この前提に基づいて、誘い方を見直してみましよう。例えば、時間です。多少なりとも欲望を感じていたとしても、仕事で翌朝、早く起きなければならないとなると、セックスの最中にも仕事のことがずっと頭の隅にこびりついたままで、行為に集中できません。そうしているうちにセックスが億劫になり、次第に拒否したくなってくるのは、とても自然な流れです。平日に睡眠時間を削って慌ただしくするよりは、週末など時間にも気持ちにもゆとりのあるときに誘うと、うまくいく可能性が高まります。
誘い方と同様に重要なのが断り方です。「疲れているから」「そんな気になれないから」と拒否してしまうのは簡単です。でも、その言葉を口にするのを3秒待ってみましょう。そして、誘いをかけてきたパートナーの立場になって考えます。誰だって、邪険にされると傷つきます。特別に繊細な神経の持ち主でなくても、何度も拒否されるうちに「また誘おう!」という気持ちも、次第にしぼんでいくものです。
そこで「今夜じゃなくて、週末、時間のあるときにしましょう」「本当は私もしたいんだけど、今夜は眠らせて」のように、パートナーを気遣うひとことをプラスします。①理由、②申し訳ないという気持ち、③自分も本当はしたいと思っていること、④近い将来にチャンスがあること、この4点を相手に伝えることができれば、パーフェクトです。こうすることでパートナーも「拒否された!」と一方的に被害者意識を持つことはなく、むしろ「疲れているのに、無理をいって悪かったな」「週末、たまには外食でもしてムードを出そうか」と前向きな気分になれます。どちらの胸にもしこりは残らず、セックスレスへと向かう坂道を転がり落ちるのを防げます。
また、女性限定のテクニックですが、ここでも女性ならではの身体のコンディションを理由にするという方法が、効果を発揮します。産婦人科の外来では、妊婦さんから「自分はお腹の子どもが気になってセックスする気になれないが、夫がしたがって困っている」という相談をされることがよくあります。そんなときは裏技として「お医者さんから、いまは赤ちゃんのために安静にするようにいわれたから」「お腹が張って苦しいの。体調が落ち着くまで、もうしばらく待ってね」といって断るようアドバイスをしています。
愛情を感じている女性の不調を押してまでセックスしたいという男性はいないでしょう。妊娠中でないにしても「生理が近くて体調が思わしくないから、楽しめないと思う。また今度にしましょう」「ホルモンバランスが悪い時期みたいで、今夜はその気になれないの」などのようにアレンジできます。